ほんとの笑顔が見たかったんだ


「…話してくれてありがとう」

私の手に、優しくそっと自分の手を乗せる彼。

いちいち私の事を緊張させるんだ。

「え、いや、あの…こっちこそ、聞いてくれてありがとね!な、なんか急に暗い話になっちゃったね!」

もう赤面する顔は隠しきれていないだろう。

だって、ソラ、私の顔を横目で見て、何か言いたげな顔をしているし…。

この空気、ちょっとマズイ。

話題…変えよう。

頭の中の引き出しを一つ開けて、ポンと出てきたの質問を、龍星君に投げかけた。



「龍星君の家族はどんな家族なの?」



そう言ってすぐ、私は、聞いてはいけない事を聞いてしまったんじゃないかと思わざるを得なかった。

だって、龍星君の手、ちょっとだけ力が入っているんだもん。

さっきまで、添えるように私の手に乗せていた彼の手が、少しだけ震えたんだもん。

明らかにおかしいよ。


「龍星、帰るぞ」


ソラは急に立ち上がって龍星君の肩を軽く叩いた。

何?

ソラ…なんか知ってるの?

二人とも、変だよ。


私は、開けてはいけなかった引き出しを選んでしまったんだ。

「ご…ごめ…」

耐え切れなくなって、謝ろうとした時、龍星君は被せるように言った。

「俺の家族は四人家族。お父さん、お母さん、お兄ちゃん…そして俺。お兄ちゃんは俺より10歳年上だよ。別に…普通の家族…だと思う…」

無理矢理笑っている龍星君を見ると、胸が痛くなる。

「いや、マジで普通の家族だよ!いや、実は夏休み前にちょっと家族と激しい喧嘩しちゃってさー、実家に帰った時に仲直り出来るかなーなんて思ってちょっと不安なんだよね」

必死にごまかす彼を見ているのが辛い。

「腹減ったし早く帰るぞ。さっさと立てや」

ソラに促されて、龍星君は立ち上がった。

私の手に乗せられていた彼の手が離れていった。





「今日はありがとうね!またね!」


何事もなかったかのように、笑顔を向けて私に手を振ってくれた龍星君に、私はちゃんと笑顔を向けられていたのだろうか。



龍星君が無理矢理笑う理由がなんとなく分かった。

多分、龍星君は"家族の事"で何かを抱えているんだと思う。

他人には話せない"何か"を…。
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