ほんとの笑顔が見たかったんだ
夏休みと言っても、あの公園にはほとんど子供はいないようだ。

近くに市民プールがあるから、そこにいく子供が多いんだろな。

そんな事を考えながら歩いていると、公園の例のベンチに誰か座っているのが見えた。

見覚えのある、金髪…。

もしかして、と思って、私はその後ろ姿の彼に近づいた。

そして、前に回り込むと…

「あ、じゅなちゃん!」

やっぱり彼だった。

彼は今日も私に笑顔を見せた。

「龍星君…」

だけど、私は笑えずに、彼の手に目を向けてしまった。

彼の手の人差し指と中指の間に挟まれているのは、白い煙を浮かべる一本の…煙草。

「あ、ごめん。消すわ」

私の視線に気づき、龍星君は飲み終わったコーヒーの缶の中に、それをスッと落とし入れた。

ジュッという音が小さく聞こえた。

「ま、座ってよ」

ベンチの空いているスペースを彼は私を促すように優しくトンと叩いた。

言われるがままに私はそこに座った。
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