ほんとの笑顔が見たかったんだ
私達には、どうする事も出来ないのかな?
難しいよ…。
「そうだよね…」
天井をボーっと見つめた。
タメ息が出る。
お互い、無口になったけど、ソラが急に焦った様子で言う。
「あいつ、そろそろ風呂から出そうだし切るわ」
「う、うん!分かった!」
龍星君にこの会話が聞かれたらまずいもんね。
「とにかく、じゅなはあいつに何も悪い事は言ってねぇから気にすんなよ?」
「うん、ありがとう!じゃあ…」
電話を切ろうとすると、ソラは大き目の声で"ちょ、待って"と言う。
「じゅなさ…俺らにいつ宿題教えに来てくれんの?」
「明日行くよ!龍星君と約束してたんだけど、なかなか行けなかったんだ…。"明日行く"って、龍星君に伝えといて!」
こんな事しか出来ないけど…それでも彼が少しでも笑ってくれるなら…。
私は小さい事でもやっていきたい。
「じゃあ…」
再び、電話を切ろうとすると、ソラはまた"待って"と、強く言った。
「なーに?」
笑いながら聞く。
「じゅなさ…」
「なーに?」
「…いや…やっぱいい。じゃあ」
結局、ソラは自分から電話を切った。
変なの…。
電話を切って、ふと私は、勉強机に立ててあるあの写真に目を向けた。
もし、パパが生きてて、龍星君の事をパパに相談したら…パパ、なんて言ってくれたかな?
…考えてみたけれど、思い浮かばなかった。
写真の中で笑うパパ。
この写真のパパみたいに、龍星君も心から笑ってくれる日が来る事を願った。
私はどうしたらいいの?
優しく吹いた風は答えを運んでくるわけでもなく、ただ静かに風鈴を揺らした。