ほんとの笑顔が見たかったんだ
携帯電話で時間を見ると、17時35分と画面に表示されている。
いつの間にかそんな時間になっていた。
窓の外は夏というだけあって、まだ明るい。
「やべー…すげー疲れた…」
寝ずにずっと集中していたソラだったけど、さすがに疲れたみたいで、ベッドに横になった。
その時、玄関のドアが開く音がした。
「みんな、まだ頑張ってたんだねー!」
帰ってくるなり楓さんはソラの部屋のドアを開けた。
ベッドで横になっているソラを見て、微笑んだ。
「宿題、かなり進んだんじゃない?」
龍星君の隣に、楓さんは座り、龍星君に投げかけた。
「じゅなちゃんのおかげで、数学の宿題は終わったよ!」
「ほんとに?!すごいじゃん!じゅなちゃんありがとね!」
満面の笑みで、楓さんは言ってくれた。
「二人が頑張ったからだよ!」
私はそう言いながら、筆箱にペンをしまう。
教えるのって、なかなか疲れたけど、楽しかったな…。
「ほんとだ!ちゃんと終わってるじゃん!…空、相変わらず字汚い!」
ソラの問題集をパラパラとめくって楓さんは笑っている。
嬉しい気持ちが私にまで伝わってくる。
「オカンだって字汚ねぇだろが…。つか、なに勝手に見てんだよ…」
ベッドで寝転びながら、ムッとしたようにソラは言った。
「ママは別に字汚くないし!かわいい字だねって言われるもん!」
「大人の字ではねぇだろが…」
いつものようなソラと楓さんのやりとり。
それを見ている龍星君の表情はとても穏やかで…居心地が良いんだろうなって感じた。
確かに、ソラと楓さんは見てて飽きないもんね。
「そうだ!今日、群青通りで夏祭りやってるよ!良かったら行って来なよ!」
ソラをからかっていた楓さんが急に思い出したように言った。
私の頭の中には、ルリカが提案してくれたあの作戦が瞬時に浮かんだ。
"祭りに誘っちゃえ作戦"だ。
「祭りなんか行かねぇよ」
疲れ切っているソラはダルそうに言う。
けど、こんなチャンス、滅多にないよ!
「行きたい!ね、三人で行こうよ!」
だからソラにはちょっと悪いけど、私はソラと龍星君に言った。
それに龍星君は答えてくれた。
「うん!行こう!」
いつものように優しく笑ってくれたんだ。