ほんとの笑顔が見たかったんだ

「そっか…」

たった一言そうつぶやいたソラ。

「うん…」

私もソラと同じように言う。

もう心臓の鼓動の速さは自分ではゆっくりする事は不可能な位だ。

「それだけ、聞きたかっただけだら。じゃ…」

私の顔を見ないまま、ソラは背を向けて歩き出す。

「ソラ…!待って!」

「ん?」

素っ気無い表情で、ソラは振り返る。

「何で…分かったの?」

恥ずかしくて、目をキョロキョロ泳がせる。

こんな事聞いたら、益々自分が恥ずかしくなるだけだって分かっているのに…。

「だってじゅな、龍星の事ばっかり見てんじゃん」

「そ…そんな…」

「俺には見せた事ない表情で龍星の事見てんじゃん」

「え…」

「バレバレだっつーの。ずっとじゅなの事見てきた俺にはすぐに分かるから」

そう言いながら、ソラは小さく笑った。


「龍星君には言わないでね?内緒だよ?」

不安げに、言う。

「言わねぇよ。ま、頑張れや。俺になんか出来る事あったらするし。じゃ」

速い口調でそう言うと、ソラはその場から去って行った。


夏の虫があちこちで鳴いている。

私は動揺して、その場にしゃがみこんだ。


「ソラにばれちゃった…」


小さく一人でそうこぼす。

しばらく、私は動けずにただただ座り込んだ。
< 93 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop