CINDERELLA STORY~貴方に巡り会えた奇跡~
でも、後ずさってみてもトイレの扉が私の足を遮り、これ以上は後ろに下がれない

どうしたら良い?

どうしたら‥‥

私は視線を泳がせながら、篤人はトイレに行きたいだけかもしれないだとか、別に私に用がある訳じゃないとか、兎に角様々な事を瞬時に思っていたのだった


「ちょっと良い?
 話があるんだけど‥‥」

「は、話?
 ちょっ‥‥!!」


私の目の前に立った篤人

そんな篤人は、いきなり私の腕を掴んで引っ張る様に歩き出したのだった

何が起きてるの?

何で篤人が私の腕を掴んでるの?

何処に行くの?

最早、私の思考回路はパニック状態

ただただ、頭の中に?マークばかり浮かんでいる状態のまま、篤人は無言のまま私を会場の外へと連れ出したのだった

行き交う人混み

そんな人混みも、今の篤人には関係ないって感じで、歩く速度は変わらないまま私の腕を掴んでいる

私と言えば、まさか会場の外に出るなんて思いもしなかったし、何処に連れて行かれるのかと思いながら、周囲にバレたりしないかって気が気ではなかった

だけど、そんな心配は無用だったみたい

誰一人として私達の存在に気が付く人もないまま、私は篤人の車に乗せられてしまったのだった


「何処に行くの?
 荷物もそのままだし、何も言わずに出て行ったら皆に迷惑をかけちゃうよ」

「大丈夫!!
 万里也に頼んで、瑠璃のマネージャーには伝言を伝えてもらったし、荷物はホテルに届けてもらうようにしてあるから‥‥
 だから、俺に時間をくれないか?」

「時間?」

「あぁ~
 瑠璃と話す時間が欲しい」


爽やかな笑顔なんて向ける事もない篤人の真剣な表情

そんな篤人の考えてる事なんて分からないし、自分にいったい何が起きてるのかも把握出来ない私は、どうしたら良いのか分からないまま、ただ頷くしか出来なかったのだった

こんな表情もするんだ‥‥

私の知らない篤人‥‥

ちょっと恐いくらいだ

車を運転する篤人の助手席で、何か話し掛けた方が良いのか考えては、篤人の表情を見て撃沈を繰り返していた私は、取り合えず黙っているべきなのだろうと思いながら、夜の街に視線を向けたのだった

夜の12時間を過ぎたと言うのに、人は溢れるように居る

路上で座り込む女性達を取り囲むように男達が話し掛けている様子や、酔っ払いの騒ぐ姿が車の窓から見えていた

そんな人混みを通り抜け、篤人は一般道から高速道路に車を進めて行く

何処に向かうのか分からず、でも篤人の表情は恐いけど不思議と恐怖感はなかった


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