Jewel Box
「おねーさんの名前。まだ聞いてない」


「はあ?」


何を言い出すんだ、この少年は。



何故もう二度と会わない奴に名乗らなければならないのか。


「だって俺だけ言って、ずるいじゃん」


あぁ、もううるさいな。


「神木 雪奈。これでいい?」


また歩きだそうとするあたしの腕を彼は再び掴む。



「何なのっ?!」


ついにはキレてしまう始末。


「だって……おねーさんが…」



急にシュンとして肩を落とす彼。



あたしは彼の表情についていけない。



急に笑ったり、真剣な顔になったり、落ち込んだり。



「何? 言いたい事あるなら言って」



しばらくの沈黙の後、彼が口を開いた。



「……泣いてるから」
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