Jewel Box

「宝物があったの。おもちゃの指輪なんだけどね。パパからのプレゼントだったんだ」


「……うん」


「最初で最後のプレゼント。あたしが六歳の時に事故死しちゃったから」


あたしがこんな話をして彼はどう思ってるだろうか。


迷惑に決まってる。



少なくともあたしだったら迷惑だと思うし。



「いい歳しておもちゃの指輪なんか宝物にして馬鹿かみたいだよね。たぶん丁度よかったんだよ、親離れに」


「話聞いてもらってスッキリした。あたしもう行くね」



立ち上がって一歩踏み出した時。



「そんな事ない」



背中越しに聞こえた声に振り向く。



「雪奈にとって、それはガラクタでも、ただのおもちゃの指輪でもないでしょ? 雪奈の宝物だよ」


彼は立ち上がり、再びあたしの頭上に傘を翳す。



あたしと彼との距離がほんの数cmになった。



「でも……雪奈が忘れなければいい。雪奈の心の中だけにあればいいんだ。形なんかなくても大切なのはその人を想い続ける心だよ」
< 14 / 84 >

この作品をシェア

pagetop