Jewel Box
「宝物があったの。おもちゃの指輪なんだけどね。パパからのプレゼントだったんだ」
「……うん」
「最初で最後のプレゼント。あたしが六歳の時に事故死しちゃったから」
あたしがこんな話をして彼はどう思ってるだろうか。
迷惑に決まってる。
少なくともあたしだったら迷惑だと思うし。
「いい歳しておもちゃの指輪なんか宝物にして馬鹿かみたいだよね。たぶん丁度よかったんだよ、親離れに」
「話聞いてもらってスッキリした。あたしもう行くね」
立ち上がって一歩踏み出した時。
「そんな事ない」
背中越しに聞こえた声に振り向く。
「雪奈にとって、それはガラクタでも、ただのおもちゃの指輪でもないでしょ? 雪奈の宝物だよ」
彼は立ち上がり、再びあたしの頭上に傘を翳す。
あたしと彼との距離がほんの数cmになった。
「でも……雪奈が忘れなければいい。雪奈の心の中だけにあればいいんだ。形なんかなくても大切なのはその人を想い続ける心だよ」