Jewel Box
「ふーん……そう。お疲れ様。じゃあ頑張ってねー」
さっさと仕事に行こうと、彼に背を向けた時
「――お姉さんっ!」
「はぁ?」
まだ何か用かよ、と思いながら振り返る。
「……ありがとう」
「え? あー、うん」
それだけかよ。
そう思いながら再び彼に背を向けた。
マンションを出て、外に待たせていたタクシーに乗る。
「ふーん。あの人、このマンションに……」
少し遠くから見つめる金髪の男。
それから少し遅れて、テニスバッグを持った少年が出てくる。
2人の顔は瓜二つ。
ただ髪の毛の色だけが2人の決定的な違いだった。
テニスバッグを持った少年――漣は無言で通り過ぎようとする。
「今日も練習かい? 熱心だねぇ。本当にテニスにしか能がないんだな。あっ……テニスラケットが恋人か」
すれ違い様に言われた、皮肉たっぷりの言葉に立ち止まる。
「……お前には関係ない」
そのまま漣は通り過ぎた。