猫又四郎の奇怪幻想見聞録

「え、」



霧が淡唐(たんから)を完全に隠すまで、僕はしばらく動けなかった。


本当の、僕の名前。

知っているのは、淡唐だけ。


僕の本当の名前を、毎日のように甘く唱えてくれた人は。


もう、いない。


だからこそ、淡唐のサプライズには面食らった。ああ、やはり呼ばれることは温かいなと……


『かわいそーな暦逢ーっ!』

『え、なになに?テメェ自分が可哀想とか気づいてないわけ?うっわ、そこまで行くと同情するわー……って、んなわけねーだろクソ餓鬼があっ!

あ、もしかしてもしかして。今期待しただとかアー?ぎゃひひっ、ざあーんねえーん。

テメェに同情する価値なんざねえよ』


『なっ、きっしょ!友達だぁあ?なあーにふざけたこと言ってんのお前頭だいじょーぶーっ?』


「………。」

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