猫又四郎の奇怪幻想見聞録

とうとう黙って店を出る僕に、さっきとは打って変わってニンマリ笑う愚弄人は「いってらっしゃい」とだけ言って手を振った。


外に出れば、相変わらずの土砂降り。


傘を開いて泥道を歩けば、上からも下からもばしゃばしゃ音がする。

息も上がる程走って、立ち入り禁止区域まで見てまわって。


そうしてまた家の前まで来ると、玄関前でひとりの少女が体育座りをしてうずくまっていた。


野良さんだ。


固く口を締めたあと、僕は野良さんにゆっくりと近づいた。



「風邪、引きますよ」

「……。」



応答はなかった。

< 54 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop