日々是淡々と‥
由香里の日常‥
「ちょっとぉ‥。これって‥。」
由香里は報告書を見ながら、提出した
本人に聞こえるように言った。

すぐ近くの席にいるのに聞こえない
ふりなのか、全く聞く気がないのか
沙耶は携帯電話のメールに夢中に
なっている。

その様子を見た由香里は今度は
優しい口調で

「田村さん。これは?」

と話しかけた。

すると沙耶はすっ呆けた様子で
振り向いて

 「へっ?」

という顔をしただけで返事もしない。
いつものことだ。
ハラワタが煮えくり返る思いだったが、
自分の感情を出来る限り抑えて、
もう一度ゆっくり、由香里は小さな
子供に呼びかけるように声をかけた。

「田村さん。ちょっと来てくれるぅ?」

そう言われてようやく、沙耶は手に
持っていた携帯を引き出しにしまうと、
いつも机の上にセットしてある
折りたたみの鏡を覗き込んで
髪型を丹念にチェックした。

それから、すました様子で何度か
前髪を整えると、渋々立ち上がって
由香里のデスクに向かう
素振りを見せた。

その仕草に由香里は

『全くぅ!今すぐ机を乗越えて行って
一発ぶん殴ってやろうかっ!』

という衝動に駆られながらも、
書類に目を通すふりをして
沙耶がやってくるのを
じっとこらえて待っていた。

 
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