日々是淡々と‥
短大を卒業し、就職したのは
今から22年も前になる。

そう、ちょうどバブルの
真っ最中だった。

今更ながら、やはりあの頃は
世の中が浮かれていた‥
バブルだったのだ‥と
改めて実感してしまう、
そんな時代だった。

おりしも、テレビやマスコミは
『女子大生ブーム』と称し
ブランドファッションに
身を包む彼女達をもてはやし、
それだけにとどまらず彼女達も
社会全体もやがて人生そのものを
ブランド化することに魅了され、
それこそが人生における
最大の成功=幸福であると
言わんばかりに狂ったように
猛進していた。

しかし、そんな華やかな世界は、
古ボケた学生寮で親からの僅かな
仕送りとファミリーレストランでの
アルバイトでやりくりするだけで
精一杯の生活を送っていた
亜由美には、別世界の話で
しかなかった。

自分とは関係がない世界‥
到底真似の出来ない生活だと‥
亜由美には『私も‥』と
追いかけるよりも
『分相応ではない』という
半ば諦めに似た気持ちの
方が強かった。

その一方で、何不自由なく
気ままに華やかでいられる
彼女達の姿を横目で見ながら、
まだ二十歳の亜由美は少し
自分の境遇を惨めに思ったり、
僻んだりしていたのかもしれない。

それがある意味『天邪鬼』とも
いえるような行動を亜由美に
とらせたのだ。

というのも‥亜由美が就職を決めた
のは、有名ブランド企業とは程遠い
町工場から発展した金属加工が
専門の中小企業だった。

今にして思えば、亜由美より
明らかに成績の悪かった
同級生達でさえ、何の躊躇もなく
少しでも名前の通ったブランド
企業を最優先に選んで就職して
いたのに‥である。

亜由美は、いわゆる立派な学校
の出身ではないし、自分の能力に
それほどの自信もなかったので、
自分の身の丈に合ったできるだけ
待遇のいい職場を探すことこそが
最良の就職活動だと勝手に
信じ込んでいた。
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