日々是淡々と‥
典子の結婚生活
その夜十時頃、雄介が帰宅した。
 「おかえりなさい。お疲れ様。」
 「うん。ただいま。」
 「お茶漬け食べる?」
 「うん。」
 雄介からカバンを受け取って寝室に
置くと、典子はキッチンに向かった。

まず冷蔵庫から雄介の好物の明太子を
出すと、さっとコンロであぶって
食べやすい大きさに切って小皿に並べる。
続いて、ヌカ床から茄子と胡瓜を
取り出して洗うと手早く切って盛り付けた。

それから午後に用意しておいた
『ほうれん草の胡麻和え』と
『レンコンのキンピラ』、
『大豆の五目煮』をそれぞれ
小さな小鉢に彩りよく盛り付けると、
それらを温かい御飯と一緒にお盆に
載せ、テーブルに並べる。

あとは、雄介の好きなほうじ茶を
淹れるだけである。

 そこへ顔を洗って部屋着に
着替えた雄介がやってきた。

 「おぉ、明太子だ♪」

と、嬉しそうに言うと、
テレビをつけていつもの
指定席に座った。

お茶を運びながら典子が話しかけた。

 「大変ねぇ。仕事は今どうなの?」

テレビに夢中の雄介は

 「まぁね。」

そっけなく答えた。

その一言になぜか典子はカチンと
きた。

 「『まぁね』って!どうして
そんな言い方になるの?
どうなのって‥って
聞いているじゃないのっ!」

思わず強い口調になってしまった。

驚いた雄介は一瞬ぽかんと
していたが、思い直したのか
笑いながら

 「ごめん、ごめん。いやぁ、
なんだか目が回りそうでさぁ~。
担当している物件に色々
トラブルが起きて大変なのよ。」

雄介は大手ゼネコンの設計部で
働いている。
毎晩のように帰宅が遅い。
それでも余り文句も言わず
疲れた様子も見せずに淡々と
仕事に出かけていく。

 そんな雄介は、扱いやすい
理想の旦那なのだが時々
物足りなくなるときがある。

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