日々是淡々と‥
目の前に出されたマスター自慢の
ジントニックをひとくち口に
含むと天井を仰ぎながら
由香里はじわっと溢れそうに
なった涙と一緒に飲み込んだ。

実は、由香里の実家は都内でも
由緒ある資産家で、彼女は
いわゆる良家の子女だった。

六つ上に超優等生の兄と
四つ上に美人で秀才の姉がいる。

そのお陰で、先祖代々優秀な
家系の中においては風貌も
学業もイマイチぱっとしない
由香里は両親からは
可愛がられてはいたが
決して期待されることの
ない少女時代を過ごした。

優秀な彼らには何ひとつ
かなわないことは子供ながらに
わかっていたので、子供の頃は
『きっと自分は他所の子だ』
と真剣に悩んでいたほどである。

兄は有名私大を卒業して
イギリスの大学院に留学。
卒業後は一流商社勤めで、
現在は家族を連れて
アメリカにいる。

姉はアメリカの大学院に留学
して数年教育関係の財団に
勤めてから帰国して超エリート
官僚とお見合い結婚をした。

今は二人の高校生の母親として
専業主婦生活を送っている。

由香里はといえば、兄や姉が
通った『立派な学校』ではなく、
両親に言わせると
『由香里に合った学校』に、
小学校から大学まで通った。

兄や姉がそれぞれ自分の能力を
最大限に発揮して勉強やスポーツ、
課外活動と充実した学生生活を
忙しく送っているのを傍らで
見ながら、どこか白けて
過ごしていた由香里は、
結局これといった目標を
見つけることもなく、
気がつくと就職活動も
全くしないまま大学4年生に
なっていた。

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