日々是淡々と‥
自分の意思を貫く為にあえて、
わざわざ両親が聞いたことも
ない小さな会社を選んだ。
 
実はそのことでもまた、
両親をかなり驚かせた。

両親には、若い娘が
一流企業ではない
怪しげな不動産会社で
働くということ自体が
全く想定外の話であり、
彼らにはまるで考えの
及ばない世界の出来事で
しかなかったのである。

不動産会社を選んだことに
特別な意味は何もなかった。

実家が地方の大きな不動産
会社だという友人の真似を
して学生時代に一緒に受けた
『宅地建物取引主任者』と
いう資格試験に合格していた
というただそれだけの
理由だった。

今でこそ由香里の働く会社は、
上場して準大手と呼ばれ
自社物件も数多く供給する
までに成長してはいるが、
当時は誰も知らない小さな
不動産販売会社に
すぎなかった。

十五年ほど前からは
有名私大卒や有名国立大卒の
社員も採用しているが、
当時は新卒社員など
一人も採用していなかった。

由香里が入社を決めた年に
初めて新卒の採用広告を
求人雑誌に掲載していたが、
応募はほとんどなかった。

由香里はその広告を見て
応募したただ一人の
新卒社員である。

そんな環境だったので、
由香里はただそれだけ
ではなく、学歴でも
注目されることとなった。

当初しばらくの間は、
有名なお嬢様学校を
卒業したお嬢様社員と
して由香里は、必要以上に
珍しがられて、
『時の人』になった。
 
かなり当惑したのは事実だが、
不思議と辞めたいなどとは
思わなかった。  

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