日々是淡々と‥
「ですから、私の方からお客に早く書類を
送ってくれないとローンが下りないからって
何度も伝えてあるのに、送ってこない
わけだから、お客の責任だと思います。」

 もちろん‥百歩譲れば‥そういう風に
言えるのかもしれない。

 しかし、相手はあくまでもお客様なのである。

第一、引渡しが遅れて一番困るのは我々だし、
いくらそうお客に説明していたとしても
引渡しが遅れれば文句を言われるのも
やはり我々なのである。

そんなトラブルや面倒は、極力回避すべく
努力するのが『道理』だとは
思わないのだろうか?

 いつも、これで由香里と沙耶は衝突する。
衝突というよりも、沙耶には由香里の考える
『道理』がまるで通じない。

 こんな状況の場合、由香里ならば直接
お客の家に行って書類をもらってくる。

そんなことは当たり前である。
身勝手なお客のせいで、郊外にある
お客の自宅に、しかもわざわざご主人の
帰宅時間に合わせて書類を取りに
行かされて帰りが夜中になったこと
だって一度や二度ではない。

それでも、仕事なのだから仕方がない。
そう思ってやってきた。

 しかし、沙耶の考えは全く違う。
そんな事は『非合理的で時間の無駄だ』と
考えているのである。

 十年ほど前から、幼稚で掴み所の無い
新入社員が増えている中で沙耶に対する
由香里の当初の印象は別に
悪いものではなかった。

 しかし、それは部署も違うし、
かなり年下なので『まぁ、若いから‥』
とあまり気に止めていなかったからだと、
由香里は後で深く反省するはめになった。

実際に部下として一緒に仕事をするように
なってからというもの、沙耶の言動が事ある
ごとに由香里を苦しめている。

仕事にも支障を来たす以上、もはや
『世代間ギャップ』という一言で
済まされる問題ではない。

しかし、気が付けばいつもマイペースな沙耶に
由香里を始め周りのまともな人間が
振り回された挙句にお手上げ状態に
なっているのが現状だった。

結局、それが今では部長という職責と共に
由香里の大きなストレスの要因になっている。

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