日々是淡々と‥
「それに、そんな事でわかるような客なら、
とっくに書類送ってきますよ。
あの田中ってのはすっごく変なやつで、
こっちの話を全然聞かないんですよ。」

「お客様‥でしょ?普段からそういう
態度だと‥。」

「はいはい、わかってます。
ちゃんとお客の前では田中様って
言ってますし‥。」

埒があかない。諦めた由香里は、

「そ‥。じゃあ、お客様は書類をいつ
送ってくださるっておっしゃっているの?」

「‥さぁ‥まだ、いつとは‥。」

 頭の血管がブチッと音を立てて切れそうに
なりながらも冷静を装い由香里は続けた。

 「聞いてみたの?まだ聞いてなければ、
すぐに確認して私に知らせてください。
以上です。」

 そう言うと、沙耶の顔を見上げてにっこり
微笑んでから机の上の書類に目を戻した。

 とてもじゃないが、書類の文字など
まともに読める気分ではない。

 数秒その場に立っていた沙耶は
ふてくされながらぼそっと

 「わかりました。」

そう言って、自分の席に戻っていった。

 頭の先から神経と血管が交互にブチブチと
音を立てて切れていくようなイライラに
打ちのめされながら、由香里は書類を
パラパラとめくって目を通している
ふりをしていた。

 そこに突然、机の上の携帯が
ブルルルル~と振動したので
驚いた由香里は我にかえった。

慌てて手にとって開いてみると、
それは親友の亜由美からのメールだった。

『仕事中にごめんね。忙しい?
近々、ミーティングしない?
御都合をお知らせ下さいな♪』

気心の知れた友達からのメールに
一瞬ほっとした由香里は、携帯を
机の下に隠しながら急いで返信した。

 『了解。ただ今イライラの頂点なり。
もう限界!今すぐ一杯やりたいよ(怒)
思いっきり辛い物食べたいよぉ!
来週は引渡しがあって無理だけど(泣)
再来週ならいいわよ!
二人の都合に合わせるよ。楽しみ!』

 由香里はそっと携帯を置くと
気を取り直して、

「はぁ~っ」

と大きなため息を一つついてから
仕事に戻った。

< 5 / 46 >

この作品をシェア

pagetop