日々是淡々と‥
そのとき、携帯が鳴った。
メールだ。

 『セレブな奥様♪何してお過ごし?
再来週あたりミーティング決行!
予定決めたら連絡するね。』

 友人の亜由美からだった。

 「あ♪」

と、嬉しそうにメールを読みかえすと
カレンダーを見た。
再来週はもう、十一月だ。

典子の脳裏に懐かしいシーンが
よみがえってきた。

【一九九八年十一月十五日(日曜日)】
カーン♪カーン♪
教会の鐘の音が聞こえている。
 「おめでとう!」
 「おめでとう、典子ぉ!綺麗よぉ♪」

ライスシャワーの中、典子はこの上ない
幸福感の絶頂にいた。

 夢にまでみていた瞬間だった。

隣にいるのは、172cmという長身の
典子にお似合いの身長が185cmも
あるスレンダーな新郎の雄介である。

4歳年上で一流の国立大学を出た
一級建築士。

典子の着ているウェディングドレスは
数十万円もする有名デザイナーの
オートクチュールだ。
ヘアメイクも雑誌で人気のヘアメイク
アーティストに特別にお願いした。

そして、
『憧れのコレジオ教会』での結婚式。

その後は、
都心にある高級ホテルでの披露宴。

翌日からはヨーロッパへ二週間の
豪華新婚旅行である。

 おまけに新居は、雄介の両親から
プレゼントされた

『たまプラーザにある90㎡超の
新築マンション』だ。

 『やったぁ!』

 典子は満面の笑顔の奥で密かに
『勝利の雄叫び』を
あげていた。

でもそんな素振りは微塵も
見せずにしとやかに上品に
謙虚に新婦を演じていた。

 いや、もちろん演技などではない。

 決して大恋愛といえるような二人では
なかったが、優しくて堅実な雄介と
結婚することに迷いはなかった。

そう、本当に幸せな新婦だった。
典子はこの上なく幸せな自分に
満足していた。

 チャラララー♪チャラララー♪

その時、リビングの飾り棚にある
置時計のチャイムが鳴った。

我にかえった典子は、苦笑いをした。
そう、あの晴れやかな挙式から来月で
ちょうど十年だ。
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