日々是淡々と‥
亜由美の日常
典子からの返信メールを亜由美は
オフィスのトイレで読んでいた。

今の職場は、自分の席での
携帯電話の使用は許されて
いないのだ。
別に規則はない。
暗黙の了解でそうなっている。

斉藤亜由美(43歳)、独身。
派遣社員である。
現在は、医療機器メーカーの
総務部に派遣されていて、
間もなく一年になる。
ここは十箇所目の派遣先だ。
 
トイレの個室に篭って、
携帯電話のメールを確認
するなどという行為は、
はっきり言ってかなり
情けない姿である。

最初の頃はそう思ったものだが、
今ではそんな自分の姿など
気にも留めない様子で
返信メールを打っていた。

『いいわねぇ。テレビ三昧とは‥
やっぱりセレブだわ♪こちらは
相も変わらず厠からのメール
でぇす(笑)。じゃあ、詳細は
由香里と調整して知らせるね。』

 続いて、由香里にもメールを打つ。

『セレブもOKだって♪
再来週の金曜日にしようよ。
場所は私が予約しておくから。
銀座でいいよね♪』

 送信が完了したのを確認すると、
亜由美は急いで席に戻り、
パソコンに向かった。

 今日は特に急ぎの仕事はない。
こういう時には頭を休めるために
単純なデータ入力作業をすることに
している。

手馴れた様子でキーボードを
叩きながら、何気なく雨で薄暗く
なっている窓の外に目をやった
亜由美はふと昔のことを思い出した
のだった。

『もう何年、こんな生活を
続けてきたことか‥。』
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