最近、風紀がみだれてます (エピソード☆ゼロ)
そこにはもうひとり、別の女が塀の上に立っていたから。
しかもつま先立ちで。
見るからに不安定な感じで、体が小刻みに揺れている。
「もうちょっとで届きそう……なんだけど」
そんなことを言いながら、彼女は精一杯背伸びをして、手を伸ばす。
見れば、塀の向こうにある木の枝に、紺色のハンカチのようなものがひっかかって、ひらひらと風に揺れていた。
どうやら、それを取ろうとしているらしい。
――ピョン
軽くその場でジャンプまでしやがった。
あっぶねー。
さすがにオレもヒヤッとする。
「結衣―。お願いだから、やめて。ほんと落ちるから」
歩道にいるショートボブの女がまた叫ぶ。
オレの目はもう、塀の上にいる、結衣と呼ばれた女に釘付けになってた。