意地悪な彼が指輪をくれる理由
しばらく沈黙が続いた。
風で周囲の木々がざわめく以外には、横の道を車が通った音しかしなかった。
碧はいずみに頭を下げたまま。
いずみは何も言わずに突っ立っている。
顔が見えないから、状況も読めない。
私はいったん瑛士と顔を見合わせ、首をかしげてからもう一度二人の様子を見る。
すると、二人はテニスコートの真ん中でぴったりくっついていた。
手で顔を覆ういずみを守るように、碧が彼女を包み込んでいる。
声が聞こえなくても、表情が見えなくても、その様子だけで十分だ。
私は胸の奥から込み上げてきた感動に堪えられず、またポロポロと涙を流してしまった。
「お前、今日は泣いてばっかだな」
「うるさい」
ハンカチ、持ってきておいてよかった。
さっき泣いたときにも使ったからまだ湿っているけれど、まだ十分に水分を吸ってくれる。
「なぁ、真奈美」
「何よ」
「チューしよう」
「はぁ?」
「あいつら見てたら、したくなった」
「あっそ」
私たちは物陰でこっそりキスをした。
その時にはもう覗いていなかったけれど、もしかしたらテニスコートの二人も……。
「真奈美、今日俺んち来ない?」
「行く」