意地悪な彼が指輪をくれる理由

「いずみのためだから最優先してるだけよ!」

フンッ!とビールを飲み干せば、瑛士がすかさず次の一杯を頼む。

「怒るなよ。うらやましいんだって」

「あっそ。じゃあ会社辞めれば?」

いつもの売り言葉に買い言葉で返したつもりだったのに、瑛士はフッと真顔になった。

「うん。実は転職考えてる」

「え? なんで?」

驚いた。

ドタキャンされたときだって、ごめんごめんと言いながら声が明るかった。

私には楽しんで働いているように見えていたのに。

「知っての通り、取引先とアポが取れるのは暗くなってからが多いし、夜いきなり呼び出されたりもする。給料は悪くないから若いうちは良かったけど、俺も懲りずに結婚願望はある。そうなったら家族を大事にしたいと思ってるし、忙しいからって休みは寝てるだけの親父にはなりたくないんだよ」

瑛士は約束がドタキャン、延期になってしまうことが多い。

いくら仕事に理解があっても、それが誕生日とか記念日だと、女はへこむ。

自分が一番だと実感できない女は、寂しくなって別れを切り出す。

もしくは浮気する。

恋愛は結婚に至るほど長く続かないかもしれない。

「なんだか瑛士がかわいそうに見えてきた」

「バカか。お前も独身彼氏なしであることを忘れんな。立場は同じだっつーの」

「ハッ! そういえばそうだった。どうしようお嫁に行き遅れちゃう」

こうして瑛士とバカな話ばかりしている間は、彼氏なんてできないだろう。

私は瑛士が好きだし。

片想いだし。

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