意地悪な彼が指輪をくれる理由

「いらっしゃいませ。どうぞご覧くださいませ」

張り切って売り場に出たはいいが、今日は先に来ていたももこが、私の顔を見るなり言った。

「真奈美さん。たぶんですけど、お腹痛いんじゃないですかぁ?」

「えっ? 何でわかったの?」

「なんかお腹のあたりが黒いです」

「黒い?」

慌てて自分の腹部を見るも、白のシフォンカットソーしか見えなかった。

それはつまり、ももこにしか見えないオーラが出ているということ。

……何か怖いんですけど。

「うーん、何だろうこれ。便秘ですかぁ?」

「えっ? そうなのかな? 自覚ないや」

「顔色もちょっと悪いですよ」

「大丈夫。そんなには痛くないから」

この程度の腹痛に負けてられるか。

意気込んでガラスケースを磨く。

隣の店舗、ビジュ・プレリュードの店員、磯山さんと目が合った。

白々しく笑顔を向けてくる彼女に、それ以上の笑顔を返す。

大人って疲れる。

絶対にビジュ・プレリュードには負けないんだから。

嫌な思い出もモチベーションの一つだ。

「いらっしゃいませ。どうぞご覧くださいませ」

お客様がいる前で悪い顔はできない。

そう思って笑顔を崩さないでいたのに、商品を紹介していたお客様が言った。

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