意地悪な彼が指輪をくれる理由
「お姉さん、大丈夫ですか?」
「え?」
「顔、真っ青ですよ。それに、冷や汗も……」
「だ、大丈夫です。真夏ですから、暑いんです。今日もいい天気ですからね」
確かに、来たときよりずっと痛みは増していた。
今商品が売れそうなのに、ここで休むわけにはいかない。
私は奥歯をぐっと噛み締め、笑顔を振り撒き続ける。
「どうもありがとうございました。またお待ちしております」
心配してくれたお客様を店先まで見送り、充実した気分で売り場に戻る。
別のお客様の対応をしているももこが、眉間にしわを寄せていた。
そんなに酷い顔をしているのだろうか。
もうそろそろ祐子さんの出勤時刻だ。
彼女が来たら、少しだけ休ませてもらおう。
汗をかいたしエアコンで乾燥して喉がカラカラだ。
とりあえず、裏でお茶だけでも……。
「真奈美さん!」
ももこの声が響く。
視界には在庫の入っている棚の取っ手がぼんやり浮かんでいる。
何、この景色?
体が動かない……。
「きゅっ……救急車!」
救急車?
私、倒れたの?
「真奈美!」
祐子さんの声がする。
「どうしたの?」
「大丈夫ですか?」
ビジュ・プレリュードの店長と磯山さんの声も……。
周り、ざわついてる……?