意地悪な彼が指輪をくれる理由

「もう……ちょう……?」

盲腸をナメていた。

ちょっと腹痛をこじらせた程度だと高を括っていた。

まさか、こんなに辛いなんて!

女医が言うには、薬で散らす方法と手術する方法があるが、私の場合状態が悪く、再発の可能性もあるので緊急施術を行うとのこと。

これから手配してできるだけ早い時間に、所要時間は1時間ほど。

術後は一週間ほどで退院できる。

……とか何とか。

みるみるうちに点滴のチューブに繋がれ、感染症やアレルギー、肝臓の検査やらが行われる。

進んでいく事態に、当事者である私はついていけていない。

ただ黙って寝転がっているだけなのだ。

話す気力もない私の代わりに、自宅への連絡は祐子さんがやってくれた。

「ネイル、ジェルですよね?」

白衣の天使が点滴に何かの液を足しながら微笑んだ。

「そうです……」

「落とさないと手術できないんですけど」

「えっ?」

「心臓の音、取れないので……もったいないんですけど、オフしてくださいね」

この間付け直しにいったばかりなのに。

今のデザイン、すっごく気に入っていたのに。

「……はい」

でももうこの際、治れば何でもいい。

退院したら、またネイルサロンに行こう。

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