意地悪な彼が指輪をくれる理由
ネイルもメイクもオフして、テレビで見るような入院患者用の寝巻きを着せられて、さらに点滴台を転がしながらノロノロ歩いている私。
不健康でヨボヨボな姿の自分に呆れていると、数メートル先に見覚えのある男が。
……幻覚だと信じたい。
私は慌てて踵を返す。
男は部屋から出て、こちらを向くことなくペコリとお辞儀をしていた。
だからたぶん、私の顔は見られていないはず。
こんなみっともない姿、見られたら困る。
だって、幻覚じゃないとしたら、あの男は本物の瑛士だということになる。
メイクはさっき落としたし顔色悪いし病人だし。
こんな私、全然可愛くない!
絶対に瑛士には見られたくない。
母がまだ来ないから、外に出て催促の電話をしたかったのだが、瑛士が現れてしまってはそれどころではなくなった。
退散!
退散ー!
走りたいのに走れない。
走るどころか、いつもの半分のスピードですら歩けない。
お願い瑛士。
私に気づかないで!
「あれ、真奈美?」
ギャー!