意地悪な彼が指輪をくれる理由
私は気付かぬ振りをして、まっすぐノロノロ足を進めた。
早く診察に来ている患者たちに紛れたいのに、体が言うことを聞かない。
ポンと肩に手を置かれたのを感じた。
つ、捕まった!
「なぁ、真奈美」
「人違いです……」
顔を伏せたまま裏声で答えた。
ごまかせていますように。
「アホな嘘をつくな。どう見ても真奈美だろ」
ああ、今日は何て運のない日なのだろう。
私は観念して顔を上げた。
「なんであんたがここにいんのよ」
「仕事に決まってるだろ。つーかお前こそどうした? 点滴なんか似合わないぞ」
「似合ってたまるか。盲腸よ、盲腸。今日、急に」
瑛士は一瞬ポカンとして、すぐにクスクス笑い始めた。
「だっさ! 盲腸だって。ははは、マジか」
こ、この野郎。
死にそうな思いしてここに来たって言うのに、心配どころかバカにするなんて。
こんな男を好きになった自分の恋愛センスを疑うわ。
「あんたマジ最低。マジムカつく! お腹痛いからもう帰る!」
「待てよ。外科病棟だろ? 送ってくよ」
「結構よ! イタタタ……」
「力むなって。盲腸ナメんな。炎症が酷くなるぞ」
「誰のせいよ」
「ごめんごめん。歩けるか?」
「一人で歩けるし。ついてこないでよ」
「やだね。心配だもん」
何よ、さっきまでバカにしてたくせに。
急に優しくしないでよ。