意地悪な彼が指輪をくれる理由
瑛士の仕事は、医師に自分の会社の薬を売り込むMR。
彼らの手が空き始める夕方頃が営業チャンスだと言っていた。
なるほど、まさにこの時間。
だけどまさかこの病院にいるなんて。
幸か不幸かもうよくわからない。
ああ、そういえば指輪を買いに来たとき、近くに取引先があるって言ってたな……。
この病院だったのか。
瑛士と二人で病室に戻ると母が到着していた。
母は私を見るなり、驚いた顔をして言った。
「あんた、いつの間に彼氏変えたの?」
その声が、6つのベッドがある病室に響く。
彼氏って……。
私病気なのに、第一声が彼氏って……。
「お母さん、まずは体の心配してよ!」
「だって体のことは店長さんに聞いたもの。盲腸なんでしょ? 私も昔切ったけど、出産よりマシだったわよ」
私の盲腸になんて興味は無いとばかりにしかめっ面を見せる。
「だからってねぇ!」
私は死ぬかと思ったんだからね、と言おうとしたとき。
「ぶはっ!」
母と私のやり取りを黙って聞いていた瑛士が、堪えきれずに笑い出した。
「笑うなバカ瑛士」
「さすがは真奈美のお母さん……くくく、そっくりだな」
「似てないもん」
こんなおばさんと一緒にしないでよ!