意地悪な彼が指輪をくれる理由

瑛士は私には決して見せない笑顔を母に向ける。

やたら上品で、素の彼を知っている私に言わせりゃ胡散臭い。

ていうか気持ち悪い。

お母さん、騙されないで。

本当はズル賢くていやらしい男なんだから。

あなたの娘を罠にかけて手込めにするような、悪い男なんだから。

でもこの人が、私の好きな男です。

「ではお母さん、僕はまだ仕事がありますので」

「あらあら。お忙しいのに引き止めちゃってごめんなさいねぇ」

「いえいえ。僕が彼女についてきただけですから。じゃあ真奈美、また来るよ」

瑛士は笑って母に背中を向け、自らの背で死角を作り、こっそり指を絡ませた。

一瞬だけだったけれど、私の胸を満たすには十分だ。

「も、もう来なくていいから!」

照れてしまった私はこう憎まれ口を叩き、また少しお腹を痛めたのだった。

本当にいやらしくて悪い男。

ちゃっかり心奪ってくれちゃってさ。

これもきっと、罠なんだ。

こうやってアメとムチを使い分け、私をどんどん虜にして。

どうせ傷が癒えた途端にあっさり手放すんでしょう?

知的な女のところへ去って行くんでしょう?



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