意地悪な彼が指輪をくれる理由

中学の頃、私は瑛士のお兄さんである秀士先輩が好きだった。

テニス部の先輩で、カッコいいしテニスは上手だし、いつもニコニコしている優しい人だった。

そんな秀士先輩に一目惚れした私は、彼の弟だという瑛士に近付いた。

瑛士と仲良くすれば、秀士先輩とも仲良くなれるかもしれないという、中学生なりの打算だったというわけだ。

当時の私は秀士先輩が好きで、好きで。

いつでも秀士先輩の隣に憧れていた。

「秀士せんぱーい!」

少しでも彼に気に入ってもらえるように、私は毎日彼の名前を呼び、手を振りながら笑顔を見せた。

彼もそれに応えてくれた。

それだけでとても幸せだった。

結局その恋が叶うことはなかったけれど、彼に恋をしていたことは甘酸っぱい初恋の思い出として、今でも心の中でダイヤモンドのようにキラキラ輝き続けている。

「ばーか。兄ちゃん彼女いるし、真奈美なんて眼中にねーよ」

今になって鮮明に蘇る、中学時代の瑛士の記憶。

口を開けばケンカばかり。

周囲には夫婦漫才だと笑われた。

だけど、たぶん。

親友であるいずみの次に、瑛士と過ごしていたような気がする。

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