意地悪な彼が指輪をくれる理由
シャッ!
「こんちわーっす」
軽い挨拶と共にカーテンを開けたのは、クールビズスタイルの瑛士だった。
私は慌てて台に乗せていた教材類を掛け布団の中に隠す。
調剤事務管理士の資格を勉強しているなんて、知られたくない。
安易に瑛士の影響を受けたとバレたら恥ずかしい。
私は今日もすっぴんだし病人面だし、昨日はお風呂にも入れなかった。
こんな姿で、あんまり会いたくないのに……。
「大川くん! 今日も来てくれたの」
病院だというのに、テンションを上げて甲高い声を発する母。
「仕事のついでですけどね。はいこれ。お見舞いに持って来たんですけど、真奈美さんは食べられないから、お母さんにお土産です」
瑛士は今日も胡散臭い爽やかな笑顔で、母にケーキ屋のものだと思われる手提げ箱を渡した。
「あらあら、美味しそうな香りがするわ。わざわざありがとうねぇ」
「ここのロールケーキ、美味いんですよ。どうぞ皆さんで召し上がってください」
くぅっ!
いいないいな、私も食べたいな。
だけど女医の許可が下りるまで、あと数日は食べられない。
切ない視線をロールケーキに向けていると、そんな私を瑛士が嘲笑った。
この野郎、さては……。
私が食べたいのに食べられないのわかってて持って来やがったな!