意地悪な彼が指輪をくれる理由
上機嫌な母はケーキの箱をしっかりと握りしめ、
「邪魔者は帰るわね」
と言って去っていった。
たぶん、早くケーキが食べたかったんだと思う。
でも、ちょうど良かった。
我が母ながら、病院に置いておくにはちょっとうるさすぎる。
「ケーキありがとう。私は食べられないけど」
「どういたしまして。お前は食えないけど」
「何の嫌がらせよ」
「嫌がらせじゃねーし。お母さんに対する俺なりのご挨拶だし」
「……だったらニヤニヤすんな。性悪男」
「おっ。おバカな真奈美も、とうとう性悪なんて言葉を使えるようになったか」
「はぁっ? 黙れバカ瑛士。死ね!」
「お前っ! 病院で死ねとか言うなよ縁起悪い」
「あんたのせいでしょう?」
言い合っていると、同じ部屋のどこかから笑い声が聞こえてきた。
ああ、まだ傷も塞がってないのにやってしまった。
夫婦漫才。
私たちはいったん睨み合って、各々自分を抑えるように深呼吸。
ちらり、母が置いていった写真立てを見た。
当時14歳。現在28歳。
あの頃から倍も生きているのに、もしかしたら私たちは成長していないのかもしれない。
「つーかお前、さっき何か隠しただろ」
ドキッ。
バレてる!