意地悪な彼が指輪をくれる理由
「別に、何も隠してないし」
「嘘つけ。さっき布団の中に入れたの見たぞ」
「き、気のせいじゃない? それより瑛士。さっきお母さんが懐かしい写真持って来たの」
私は母が持って来た写真立てを取り、見せつけた。
そうしながらもぞもぞ動き、テキストをより布団の奥に押し込み、尻に敷いた。
「お、ほんとだ。懐かしい」
「ね?」
「ごまかすな。ますます気になるだろ。見せろ!」
「いやー!」
瑛士が布団を引き、私がそれを押さえる。
力むと痛むし、あまり力は入れられない。
布団は簡単に剥がされてしまった。
ああっ、バレちゃう……。
「倉田さん入りますよ」
シャッ!
勢い良くカーテンが開く。
「病院では静かにしてください」
そこには白衣に身を包み聴診器を首に下げる一方で、眉は吊り上げている船越女医が。
彼女の視界には、布団を剥ぎ病人に覆い被さる薬の営業マンと、抵抗する担当患者が映っているはずだ。
もしかしたら、瑛士の業績がガタ落ちするかもしれない……。
ふん、自業自得だバカ野郎。
そこまで思考を巡らせじっとしていたが、どうも二人の反応は普通じゃなかった。
二人はしばらく驚いた顔で見つめ合っていた。
そして、次の瞬間。
慣れたような口調で、女医が呟いた。
「瑛士」