意地悪な彼が指輪をくれる理由
瑛士を振った女は知的なお嬢様だと聞いていた。
だから、清楚で大人しい女だと勝手に思っていた。
職業で言えば、ピアノの先生あたりだと想像していた。
それがまさか、ちょっと派手めで気の強い女医だったなんて意外すぎる。
しかも、私の担当医だなんて、世間が狭いにも程がある。
瑛士のあの表情と動揺は、未だに彼女を意識している証拠だ。
あれからもう3ヶ月も経つのに、あんなに傷を舐め合ったのに、私は彼の傷を癒せていなかった。
いや、違う。
そもそも1ヶ月に数回会っていただけなのに、「癒す」だなんて思い上がりだ。
プロポーズを決意するほど愛していたこの女とは、振られてからも仕事で頻繁に顔を合わせていたのだから……。
「先生、瑛士のお知り合いだったんですね」
白々しく笑顔を向けて問う。
あんたが彼を傷つけたのね、と言ってやりたいところだが、ここはひとまず我慢する。
でも我慢したらズンと腹が痛んだ。
「ええ、まあ。倉田さん、もしかして彼とお付き合いを?」
「やだなぁ、違いますよぉ。中学の時の同級生なんです」
「そうですか」
女医は少し安心したように笑った。
……安心?
そんなのおかしい。
どうして振ったあなたがそんな顔するのよ。
あんなに瑛士を傷つけたくせに、まだ好きだってこと?
ふざけんな。