意地悪な彼が指輪をくれる理由
瑛士の未練が晴れないのは、彼女が思わせぶりな態度を取り続けているからかもしれない。
シャッ!
隙間から勢いよくカーテンが空き、マスクを着用した看護師が入ってきた。
「ああ先生、いらしたんですか」
「ええ」
「倉田さーん、お腹のガーゼ換えますねー」
私は看護師に促されるまま、大人しく横になる。
看護師がいるが、私はあえて気にせず口に出した。
「先生は、まだ瑛士が好きなんですか?」
できるだけ棘のないように言ったつもりだ。
私の腹を見ていた女医は、ピタリと手を止めた。
看護師まで私の顔を見る。
「えっ?」
「見ててわかりました。瑛士を振ったの、先生なんでしょう?」
女医は答えずに再び診察の手を動かし始めた。
もどかしい沈黙が数秒続く。
何か言いなさいよ……。
「胸の音、聞かせてくださいね」
私は看護師に手伝ってもらいながら体を起こし、指示に従い深呼吸。
しばらく繰り返した後、女医は聴診器を耳から外しながら微笑んだ。
「恋バナは、また今度にしましょう」
逃げたな。
「……そうですね」