意地悪な彼が指輪をくれる理由
女医は優しく掛け布団を私にかぶせ、看護師を引き連れて次の患者の元へと去っていった。
私は言いたいことや聞きたいことをグッと飲み込み、目を閉じる。
まぶたに映る、ヤケ酒のときの瑛士のだらしない顔。
そして罠にかかった私を組み敷いたときの色っぽい顔。
ゆっくり目を開くと、天井のトラバーチン模様が揺れて見えた。
彼女は私の質問について、否定も肯定もしなかった。
だけど、質問の意図は察しているはずなのだ。
尻に敷いて隠していたテキストを取り出す。
多少厚みのあるテキストだが、汗を吸ってしっとりとしている。
私はそれをぎゅっと抱いた。
瑛士を守りたい。
抱き締めたい。
あの女の呪縛から解放してあげたい。
傷を癒したい。
今でも彼女にえぐられているなんて、悲しすぎる。
瑛士……。
今ごろどんな顔をしているんだろう。
ついさっきまで一緒にいたけれど、声だけでも聞きたいな。
私は携帯を握り締め、お腹が痛まないようゆっくりベッドを降り、バルコニーへと向かった。