意地悪な彼が指輪をくれる理由
刺すような日差しとまとわりつく蒸し暑さ。
傷口を覆うガーゼにも汗がにじむのがわかる。
セミの音に混じって微かに風が吹く。
夏の空気は傷に良くないと思う。
携帯を耳に当てると、無機質な発信音が身体中に響いた。
「もしもし、真奈美? どうした?」
瑛士はいつもと変わらぬトーンで電話に出た。
コツコツ革靴で歩く音がする。
できれば顔を見たかったけれど、もうこの病院にはいないようだ。
「ねぇ、瑛士。瑛士の元カノって先生だったんだ。すっごい偶然だね」
できるだけ明るく、冗談っぽく、いつもの感じで。
「……由香里に聞いたのか?」
「ううん。察しただけ」
今でも名前で呼び合う二人に腹が立つ。
嫌い合っているわけではないのがわかって焦ってしまう。
「お前さ、バカだけど変な勘は冴えてるよな」
「一言多いっつーの」
「で、結局お前は何を隠してたんだよ」
「瑛士には教えない」
ちょっとした資格で知性を備えようだなんて、甘かった。
私の敵はお医者様。
知性で言えば足元にも及ばない。
それでも私は自らの未来を切り開くために、病室に戻ってテキストを開いた。
別に瑛士のために勉強してるんじゃないんだから。
きっと私のためになるんだから。