意地悪な彼が指輪をくれる理由
「真奈美が倒れてからまだ3日だけどね。うちのジュエリーを真奈美から買いたいっていうお客様が二人も来たの」
祐子さんは優しく微笑む。
「え……?」
解雇通知を覚悟していた私の、体中の力が抜けていった。
代わりに目からは涙が溢れる。
「このペースだと、10日で6人分の売り上げが上がんなくなっちゃう。お店としても困るから、さっさと治して、早く復帰してね」
私、この仕事をやっていて良かった……。
「はいっ!」
ウェディングサイトの書き込み事件が起こってからというもの、自分の販売員としての品格についてずっと考えていた。
数々の失敗の反省ばかりしていた。
このままでは首を切られてもおかしくないと思いつつ、店やジュエルアリュールというブランドが好きだから、少しでも役に立てるよう頑張ってきた。
祐子さんの上品できめ細かい接客はすごい。
ももこのオーラをヒントにした接客もすごい。
二人はいつも、販売員として輝いている。
だけど私には何も武器がない。
そう思っていたけれど、もしかしたら私にもあるのだろうか。
販売員として、キラリと輝いている何かが。
「ほら、あのバリキャリの人いるじゃない?」
「渡辺さんですか?」
「そうそう、渡辺さん。あの人、真奈美がいないならいいって言って、木元マネージャーの話、全く聞かなかったの」
「彼女らしいですね」
「マネージャーは自信なくしてたけどね」