意地悪な彼が指輪をくれる理由
私は順調に回復していき、入院生活も残り2日となった。
最近では歩いてもお腹が痛まなくなってきたし、食事もいただける。
まだまだ流動食に近いけれど、人間としての機能が回復してきた気がして嬉しい。
それに、ちょっと痩せた……はず。
不健康なダイエットになったが、今のぺったんこのお腹をキープしたい。
誰かがいる時と散歩している時以外はほとんど資格の勉強をしていたから、予定より早く受検ができると思う。
動くだけでも痛かったし、自由に飲み物さえ飲めなかったけれど、悪いことばかりではなかった。
そうポジティブに考えよう。
この日の夜、勉強に飽きて小説を読んでいた私の元に女医がやってきた。
「倉田さーん。お腹の調子はどうですか?」
医者らしいことを口に出したけれど、白衣は身に付けていない。
「おかげさまで、傷が痛む程度です」
「熱もすぐに下がったし、回復力が10代並み。胃腸も強いし、素晴らしい体ですね」
「と言ってもなかなか辛かったですけど。まだ点滴も取れないし」
「それが病気なんです。だから、体は大事にしなくちゃね」
女医は話しながら私のベッドの背もたれを起こした。
そして。
「ちょっと歩かない?」
ため口になった彼女。
医者としてではなく女として、恋バナのお誘いだ。