意地悪な彼が指輪をくれる理由

女医と二人でやってきたのは、カウンセリングルームだった。

白い壁、茶色のカーペットが敷かれた床、そして照明は暖かみのある黄色っぽいLEDライト。

そこに焦げ茶色のテーブル、オフホワイトの生地が張られた椅子が配置されている。

病院というだけで冷たくて殺風景な部屋を想像していたが、温かみがあるモダンな部屋である。

「ゆっくり座って。そう、上半身を倒して」

手伝ってもらいながら椅子に腰掛ける。

ライバルに手伝ってもらわなければ座ることさえできないなんてカッコ悪い。

一刻も早く治したい。

女医は軽い足取りで向かい側の席に座った。

私たちの距離は、約1メートルだ。

「改めまして。船越由香里です。この病院で外科医をやっています」

軽く頭を下げた女医。

セミロングの髪が揺れる。

「どうも。倉田真奈美です。ジュエリーショップの販売員です……」

私も釣られて頭を下げた。

試合前の挨拶のよう。

私と彼女の間に、見えない火花が散る。

「とりあえず、私が今感じ取っていることを話してもいい?」

「どうぞ」

「倉田さんは瑛士のことが好きなのね?」

「……はい」

「で、私と瑛士が付き合ってたことも知っている」

「はい」

「それからたぶん、瑛士とは……まあ、それなりの関係」

「……はい」

すごい。

彼女が私と瑛士をセットで見たのは、あの時の約2分間だけなのに、ここまで正確に感じ取ったなんて。

私はなんだか悔しくて、無愛想に返事をするしかできない。

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