意地悪な彼が指輪をくれる理由
なにそれ、どういう意味?
好きな人にプロポーズされるというのは、全女子共通の夢だと思っていたのに。
避けたかったなんて理解できない。
いい加減な気持ちで付き合っていたってこと?
『プロポーズ、頑張ってね』
『サンキュ』
指輪を買いにきたときの瑛士の気持ちを思うと、泣きたくなる。
この女を殴ってしまいたい。
まだちゃんとは動かないこの体が恨めしい。
「先生、頭おかしいんじゃないの? 脳外科で診てもらったら?」
精一杯の悪態をついてみるも、私のボキャブラリーでは、小学生のようにしか返せなかった。
「安心して。私は正常よ」
「全然正常じゃないよ!」
瑛士、あんなに幸せそうな顔をしていたのに。
踏みにじるなんて許せない。
許せない……!
「落ち着いて、倉田さん。力むとお腹に響いちゃう。炎症が再発しちゃうかも」
確かに響く。
でも、あんたのせいよ。
医者なのに、この人といると症状が悪化しそうだ。
「私だって、別れてからまだ気持ちの整理がついてないの。まだ好きなの。忘れたいのよ」
「自分から振ったくせに」
「そう。別れ話をするのも辛かった」
女医は一度深く息をつき、軽く吸った。
軽く目が潤んだように見える。
「私、瑛士とは結婚できない運命だから」