意地悪な彼が指輪をくれる理由
これまでずっと落ち着いた口調で語ってきた彼女が、急に「運命」なんていうロマンチックな言葉を使った。
同じ女としてのリアリティを感じなかった彼女に、ほんの少しだけれど、感情が見えて安心さえする。
瑛士が愛した……いや、今でも愛しているかもしれない女。
気が強そうだし可愛げがないように見えるけれど、きっと瑛士にしか見せない顔があったのだろう。
女医は椅子の背もたれに体を預け、視線を私ではないどこかへと向けて語り出した。
私、この病院の一人娘なの。
祖父が亡くなってからは父が院長を務めてて、ゆくゆくは、私の夫になる男がこの病院を継ぐことになる。
つまりね、私はこの病院の院長にふさわしい優秀な医師以外との結婚は認めてもらえないってわけ。
瑛士は医師じゃないから、そもそも付き合い自体、家族に反対されていたの。
毎日のように
「MRなんかとはさっさと別れて見合いしろ」
って言われてね。
政略結婚なんて時代遅れでしょう?
でも、この業界では珍しくないのよ。
両親も見合い結婚。
母も別の総合病院の令嬢だったの。
父は病院のためにどうしても息子が欲しかったみたいだけれど、結局私しか子供ができなくてね。
期待を一身に背負ってるってわけ。