意地悪な彼が指輪をくれる理由
女医の話は、私には現実離れしすぎていた。
最後の方になるとスケールが大きすぎて、住む世界の違いを感じた。
きっと彼女は彼女なりに一生懸命恋愛をしていただけなのだろう。
いずれは好きでもない男と結婚させられる可能性が高い。
好きな人と共に過ごせる限られた時間を、精一杯謳歌していたのだろう。
彼女だって幸せになりたいに違いない。
……だけど、だからって私は彼女に同情する義理はない。
瑛士が彼女のせいで傷ついた事実に変わりはないんだから。
「本当に瑛士が好きなら、瑛士を傷つけるようなことしないでよ」
私はそう言って立ち上がった。
思い切って立ち上がったから、傷がズンと痛む。
女医は座ったまま睨み返す。
「あなたに言われたくないな」
「どういう意味よ」
「瑛士に聞いたことがあるの。中学時代に好きだった女の子の話。一番惨めだった恋愛の話として」
瑛士は私が好きだった。
私は瑛士の兄である秀士先輩が好きだった。
瑛士の気持ちを知らなかった私は、彼の前で秀士先輩への気持ちを大いに語っていた。
「あなたのことよね?」
何も言い返せなくなった私は、黙ってカウンセリングルームを後にした。