意地悪な彼が指輪をくれる理由
女医への未練が薄れて傷が癒えるまで、最も近くにいる女としての地位を確立しておきたかった。
瑛士は私を罠に嵌めて弄ぶような男だけれど、分別はある。
私が新たな恋を見つけたとしたら、距離を取るであろうことは予想していた。
だけど私が好きなのは瑛士なんだから、距離を取るなんて嫌だ。
もっと瑛士のそばにいたい。
「そうじゃないって、どういう意味?」
怪訝な表情で私を見つめる瑛士。
私たちの顔の距離は約20センチ。
こんなにも近くに彼の唇がある。
キスしたい。
でも今はする理由がない。
もどかしい。
こんな距離、私を煽ってるの?
どういう意味か、賢いあんたならわかるんじゃないの?
「邪魔とか、そういうの、瑛士は考えなくていい」
「考えるよ。前に言ったろ? 俺、真奈美を傷つけるつもりはない」
「つもりはなくても、そんなの無理だよ。私を幸せにする気はないんでしょう?」
「お前、何言って……」
瑛士。
私、今やっとわかったよ。
中学時代のあんたの気持ちが。
自分じゃなく別の人を好きだとわかっているから、堪えて堪えて堪えて。
悲しいというよりは腹立たしい。
そんな気持ちが爆発したから、こんな風に言ったんだね。
「私、あんたのことが好きなんだよ。何で気付かないの? バッカじゃないの?」