意地悪な彼が指輪をくれる理由

閉店間際には、あの木元マネージャーもやってきた。

「退院おめでとうございます」

売り場に立たなくなった彼は、残念ながらいつものクールビズスタイルだ。

「マネージャー、私の代役を引き受けてくださったんですよね。ただでさえお忙しいのに、ありがとうございました」

「いえいえ。これもマネージャーの仕事ですから」

退院したばかりだから気を使ってくれているのだろうか。

いつもより優しい気がする。

「祐子さんに画像を見せてもらったんですけど、販売員スタイルのマネージャー、なかなか素敵でしたよ」

「えっ? 画像?」

マネージャーが祐子さんに視線を向ける。

すると祐子さんはヘラッと笑い、その画像を表示した携帯の画面を向けた。

「えへへ。撮っちゃった」

「……いつの間に」

「さあ?」

一緒にいた時間が長かったからだろうか。

いつもギスギスしていた祐子さんと木元マネージャーの距離が近くなったような気がする。

「店長ともあろうあなたが、営業中に一体何をやってるんですか。従業員が真似をするようになったらどうするんです? しっかり仕事をしてください。それに……」

ああ、ドSマネージャーの生意気な説教が始まってしまった。

だけど祐子さんは、今までと違ってそれを楽しんでいるような表情をしていた。


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