意地悪な彼が指輪をくれる理由




9月になり、暦の上では秋になった。

Mビルのファッションフロアには秋物が並び、1階のジュエリーフロアにも秋らしい置物が置かれている。

……が、まだまだ暑い。

この日、私はわざわざ土曜日に休みを取り、とある場所に来ていた。

「ねえっ! この小物入れ、かわいくない?」

「お前な、俺たちは二次会の景品を買いに来たんだろうが!」

「せっかくこういう雑貨屋に来たんだから、ちょっと見て回るくらいいいじゃん、ケチ」

「お前は目移りが激しいんだよ」

「女の子はみんなそんなもんなの。あ、これもかわいい」

テンションの上がりまくった私に、瑛士がため息をつく。

ため息つきたいのはこっちだっつーの。

何が悲しくて振られた男と買い物なんてしなきゃなんないのさっ。

気まずい雰囲気になりたくなくて、わざわざテンションを上げているんだバカヤロー。

「あ、ここのシュシュかわいいのいっぱいあるー。作りもしっかりしてるー。あ、これかわいいな。こっちもかわいい」

「お前、さっきから“かわいい”しか言ってねーぞ」

「うわーっ、結構値段するなぁ。1200円だって。でも持ってると重宝するからなー」

「……聞けよ」

ふん、聞いてるし。

フラフラしてるのはわざとだもん。

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