意地悪な彼が指輪をくれる理由
瑛士は思いきり眉間にしわを寄せた。
うーんと唸り、ぼりぼり頭をかく。
「期待させたつもりはなかったよ。逆に俺が期待してるけど」
「なんであんたが期待するのよ」
「そりゃあ……ねぇ?」
この男、私の気持ちを知りながら思いっきり下心を見せやがった。
私の気持ちを弄ぶと、宣言したも同然だ。
「最低野郎」
「その最低野郎に惚れたのは誰だよ」
「私だよ! うるさいな!」
バカみたいだけど、その下心さえ嬉しいんだよ。
良いように使われてるだけだってわかっていても、幸せに感じてしまうんだよ。
今日一日一緒にいて、ちょっとしたプレゼントまでもらって、更に体まで重ねてしまったら……。
私、瑛士無しでは生きていけなくなるんじゃないかってくらい好きになってしまうと思う。
たぶん、こういうのを「溺れる」って言うんだ。
「お前の言い分もわかるけど、マジで心配なんだって」
窓の外を見ると、電線が踊り、木々はしなる。
確かに無事に帰れそうもない。
「心配してくれるのは嬉しいけど、正直、辛いの」
「普通のことだろ。なんで辛いんだよ」
瑛士をもっと好きになってしまうからだよ。
これ以上好きになりたくない。
だってもうすでに振られてるのに、悲しすぎるじゃない。