意地悪な彼が指輪をくれる理由
……だから。
「もうこれ以上、瑛士といたくない」
自分で言ったくせに、じわり涙が浮かんだ。
私を振ったくせに、瑛士は傷ついた顔をした。
「……そうかよ。だったらもう好きにしろ」
ふいと背を向け、寝室へ。
パタンと扉が閉まり、姿さえ見えなくなった。
「そうする」
私はリビングでぽつりと呟き、床に放置していたバッグを手に取る。
こんな別れ方は辛いけど、きっと一緒にいてもっと好きになってしまうよりはマシなのだ。
ビュウウウウウウ……。
11階ともなると、風の音がよく響く。
地上はきっとひどい状態だろう。
私はそそくさとサンダルを履き、瑛士の部屋を出た。
エレベーターで地上へ降り、オートロックを抜け、エントランスから屋外へ出る。
自動ドアが開くと、あまりの風に自分の髪が顔に貼り付いた。
それを払いのけ、雨を凌ぐために傘を差したが、一瞬で風に煽られ破損し、更に私の手からすり抜けどこかへ飛んで行った。
仕方がないので眉の上に手をあて、視界だけは確保しながら駅へ向かう道へ足を進める。
遠くはないが、着く頃にはビショビショだ。
電車はきっと動いていない。
でも、きっとタクシーなら動いているはずだ。
とりあえず今日は帰ろう。
風邪を引いたりしないよう温かい風呂に浸かって、汗と一緒に涙も流してしまおう。