意地悪な彼が指輪をくれる理由
「まだダメになったと決まったわけじゃないでしょ」
秀士先輩は優しく告げ、私の肩に手を乗せた。
瑛士とは違う手の温もりが冷えた肩にじわりと伝導する。
私は首を横に振った。
「私、今まで瑛士と何もなかったわけじゃないんです」
「それはつまり、したってこと?」
今度は首を縦に振る。
秀士先輩は軽く眉間にしわを寄せた。
呆れられてしまったかもしれない。
「自分なりに頑張って、もしかしたらいい雰囲気かもって、勘違いできたこともあったんですけど。私は結局、失恋の傷を癒す絆創膏にもなれませんでした」
前に瑛士が言っていた。
「寂しさを埋め合うのがベストだと思うよ」
その通り、寂しさを埋める“だけ”にしておけば、きっとベストな関係だった。
私が好きになんかなってしまったからおかしくなったのだ。
瑛士に恋をするのなら、純粋に恋をしたかった。
好きなのに素直になれない、初々しい恋にしたかった。
瑛士の温もり、匂い、唇、肌。
下手に触れたりしなければ、こんな喪失感を味わうことはなかっただろう。